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てつるぶろぐ

仮住まいなう

ディス・カバー。

42 life, the universe and everything

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うちの方から、大晦日の富士山。α900APS-Cモードにして、300mm相当。


倉嶋厚さんというお天気キャスター*1が居られるのですが、その方が今から10年以上前の日経新聞に書かれた "心眼を覆うベール,謙虚こそ成長の道" というコラムが当時すごく気に入って、親にバレないように(高校生はね、多感なんですよね…)こっそり古新聞に出す前の新聞の山から探し出して、切り抜いて、パソコンに打ち込んだことがあります。富士山の山頂にかぶさる笠雲を見てふと懐かしいなと思ったついでにエントリ。

本当はコラムの全文を引用したいところですが、さすがにそういう訳にも行かないので半分くらいだけ。
故郷の長野を離れて気象技官養成所の寮で先輩技師から毎朝雲の名前を教わった、という話のあと。

 初めての夏休みに長野市に帰省して,故郷の空を眺めて息をのんだ.たいへん美しく感じたからである.山国だから,気流が複雑な上下運動をする.そしてさまざまな形の雲ができる.それはまるで「雲の展覧会」のようだった.孤独癖のある少年のころも,よく空を眺めた.夕焼けに染まった巻積雲を美しいと感じたこともあった.が,対象物について何らかの知識を得た上で見ると,印象はずっと違うことを経験したのである.
 後年,よく似た経験をした.40歳代の後半だったと思うが,働き盛りの予報官だった私は,久しぶりに帰省して,中学生のころの通学の道を歩いて,「おや,こんなところに風の伯爵夫人がいる」と立ち止まった.
 山を越える気流が大きく上下に波打つと風下側にいくつもの定常波ができる.その波頭にできる雲が「笠雲」や「吊し雲」で,前者は山の頂を覆ったり,その上方に浮かび,後者は山の風下側に並ぶ.風はこの雲を吹き抜け,空気は絶えず入れ替わっているのだが,雲の入り口で水蒸気が凝結し出口で蒸発するので,雲はほとんど同じ位置に止まっているように見える.たいへん美しい形の雲で,イタリアのシシリー島のエトナ山の「吊し雲」は「風の伯爵夫人」と呼ばれている.この伯爵夫人との思いがけない出合いに感動し,しばらくたたずんでいた私は,ふと思った.
 少年時代に5年間,毎日通った道なのだから,この雲の姿は必ず目に入っていたに違いない.それなのに私はいま初めて,この雲を見ている.発見を英語でディスカバーという.カバーは「覆い」,「ふた」で,ディスは「除く」,「不……」,「非……」などを意味する接頭辞である.つまりディスカバーとはカバーを取り除くことである.その取り除くべきカバーは,発見される事物を覆っているのではなく,多くは見る人の心眼の前に垂れ下がっているのだ.私にはまだまだ見ながら見ていないものがたくさんある.人生の事柄を処するには,もっともっと謙虚でなければならぬ,とその時,思ったのだった.

http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0242650/js/another01.html

見ていて、観ていないというのは、本や漫画や映画でも往々にしてありますよね。
そして、"取り除くべきカバー"は、マサバとゴマサバの間、モルモットとハムスターの間、笠雲と吊し雲の間みたいなところから、ステッカーの端っこみたいにペリペリとめくっていけるんだろうか、と想像してみる。

ちなみに当時のコラムなんかをまとめて岩波から単行本が出ています→日本の空をみつめて。上記の文章も、リンク先には全文掲載されています。(反響が大きい文章だったのかな。そうだったらなんか嬉しい)
今みたいに、寒くて空が綺麗な時に読みたい本。




で、唐突にさかなクンエントリのスピンオフみたいな話に変わるんですけど。
頂いたブコメid:namikawamisakiさんから

自分自身の目で見てふれてさわって食って実感することを積極的にやろう/ちょっと虫眼鏡買ってくる/モフモフ

http://b.hatena.ne.jp/namikawamisaki/20101221#bookmark-27501654

てコメント頂いたのですが(ありがとうございます)
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これは自分がキーホルダーにしてる繰り出しルーペ。*2
お守りとは言わないけど、少しでも目の前のベールを忘れないように。細部に、肌理みたいなものに謙虚であれればいいな、と。

*1:気象予報士という資格ができる前に第一線だったので、「気象予報士」ではないそうです

*2:レンズ落としたりして何代か入れ替わってる。これは前の部署にいたとき、出入り業者さんに売ってもらった。楽天でも売ってますし1個あると何かと便利ですよー