読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

てつるぶろぐ

仮住まいなう

「科学者に言いたいこと、ないですか?」

昨日、日本科学未来館で開催された「科学者に言いたいこと、ないですか?」というイベントに行ってきました。*1

あなたは科学に何を期待してきたでしょう? 
3月11日後の大震災に際して、科学はあなたの期待どおりの働きを見せてくれたでしょうか? 事後処理と復興の活動が多方面で懸命に行われている一方で、さまざまな混乱や問題が生じているのも事実です。そこでは、渦中にある科学者もまた悩み苦しんでいたはずです。
この会は、これまでの8ヵ月余りの間に生まれた科学や科学者に対するあなたの疑問や不満そして期待と、科学者の切実な思いとをぶつけあい、ともに語り合う場です。科学が力を存分に発揮できる社会にするために、今、私たちが抱える課題と解決方法を探ります。

シリーズ3 after3.11 エネルギー・科学・情報の民主的な選択に向かって02 科学者に言いたいこと、ないですか?

というイベント。

自分はまがりなりにも農学系の学科を出て食品系分析技術屋をしてた過去を持ち、今は事務屋をしているような既に俺々トランスサイエンスな人間なので、「科学者に言いたいこと」とか「科学に何を期待してきた」と言われると、逆に「えっ科学者ってそんなに離れた存在なん?」と思ってしまうのですが。

思ったこと

イベントの内容はいずれyoutubeにアップされるので詳細の説明はしませんが*2、内容と内容以外のところで幾つか示唆的なことがありました。思ったことであって「こうしたほうがいいのに」までは思い至っていませんが、メモ的につらつら書いておきます。きっと世の中に対して周回遅れな考えもあるかと思いますがまあそれはそれで。

「餅は餅屋」

早野さん始め、今回の震災とその後の原発事故について、まず動き出したのは手弁当のボランタリー科学者の方が多かったはずです。それも原子力の専門家というよりは他の分野の。その辺りの話で何度か「餅は餅屋なのですが…」というフレーズが出てきたのですが、果たして「餅屋」とは何なのだろうな、と。
地震プレートテクトニクス津波流体力学、建物は建築、核反応は原子力工学、でも炉の話になるとむしろ物材だし。水素爆発の話だとプラントエンジニアリング系の化学者だし、大気中に放出された放射性物質は気候システムと計算機だし、海に落ちれば海洋学、陸に落ちれば土壌学。魚が取り込めば水族の生理学だし、植物が取り込めば植物生理学、それを食べるためには食品加工学と食品衛生学(ようやく自分のフィールドが出てきた)。食べたらこんどは医学生理学の話になる。
当然それぞれ法や政治や経済の話が絡む訳で、さてこの中で餅屋とは誰なんだろうなあ、と途方にくれるのです。もちろん時期に応じて変わってくるのでしょうが、「餅は餅屋」のマインドセットは細分化と複雑系の時代に合わないのかなあとぼんやり思いました。
<19日朝追記>
あと、個人的には上の分野それぞれはひょっとするとそれなりに機能していたんじゃないかなとも思っています。ただ分野という縦糸を横断するコミュニケーションの横糸が絶望的に少なかったような感触を持っています。つまり、餅は餅屋がタコはタコ壷にニアリーイコールになってしまってはいなかったのかな、と。
<追記ここまで>

学術会議と「大声で間違う人」

長坂さん始め、登壇者以外の参加者含め、学術会議への文句が全般的に多かったです。特に長坂さんの辛辣な批判を口にした際に場内から大きな拍手があがることがありました。でもその時、なんか漠然とこの雰囲気はヤだなと思ったのです。
当然そういう組織の上の人しっかりしろよな、ということは思っていますが、その一方で石つぶてを投げつけられるほど学術会議側の「縛り」について知らないんですよね。もちろん中島さん(学術会議の会員)も言われたようにそれぞれの会員はそれぞれ大学の業務とかを抱えた状態でやっているので手が回らないことも当然あるでしょう。あるいは戦後設立された機関ですが図書館のように戦前戦中の思想善導への反動を内包していたりしないのかな、とも。また、そもそも昨年あったホメオパシーへの批判*3ですらビタミンKの問題が出てからだいぶかかって「会長談話」という形でしか出ていない訳です。ホメオパシー批判よりもずっとずっと複雑でステークホルダーの多い原発事故の問題に対して即座に対応できる組織にデザインされていないのではないか、というようにも思います。
また合わせて「誤った情報を出している科学者等」についての言及もありました。自分自身も、それなりのポジションにいる学者さんのblogやtweetを見てイライラムカムカすることもありましたが、彼らにも賛同者がたくさん居ることを考えると、あんな大学とかこんな大学とかの教授という肩書きで大声で間違う人に対して、何らかの権威がカウンターしてくれることに期待するのは限界があるなあというのを感じずにはおれませんでした。あるいは、些細なことで権威側が間違ったことを言ったとしたら。ワンストライクで負けになるチームと、どれだけ空振りしていてもバッターボックスから出ようとしないチームが同じルールで試合できる訳ないんですけど。
そして、学術会議も私達の社会もどちらも、そう簡単に変わらない/変われない中で、それを踏まえた上でどうして行くのが良いんだろう。拡大して、「悪意」なく誤解を撒き散らす人にどう対応すれば良いのかというハンロンの剃刀的な話とか。倫理や誠実さをどう担保してやっていくのか。

平時の対応

会場の認識として、一応緊急事態のままであるという感じで話が進んでいました。
じゃあ平時にどうしていたら良かったのかなあ、とか帰り道つらつら考えていたのですが、例えば昔リスクの話で安井至さんだったかが「知識パッケージ」ということを書かれていたのを思い出しました。取り急ぎ必要な科学知識の詰め合わせのような感じなのですが、そういったパッケージそのものや、パッケージをインストールした人がある程度いれば、いざという時にトロイの木馬のように展開できるのかもなあと。(例えが悪い)
何も立派なものでなくて、必要な時にぱっと展開して違う視点から物事をみて判断できる脚立のような知識で良いんだと思うんだけど。

数字の取り扱い方

早野さんの学校給食丸ごと測定の話で、教育委員会から難色を示されたという話がありました。
会場からは「ありえない!」のようなうめき声が漏れましたが、自分は夏頃に職場で「福島の桃を貰ったんだけど付いていた放射能検査証明書の意味がわからない」という女性と10分くらい電話で話をし、証明書の中身を読んでもらったらNDだったので検出限界とか規制値とかサンプリングについて説明したのですが、そのことを考えると、万一数字化した場合を危惧するのは(支持しないけど)やっぱり理解は出来ちゃうんですよね。
上で書いた知識パッケージにも入れる必要があると思うのだけど、「数字のスルー力」っていうのはきっと必須ツールの一つになるのではないでしょうか。検出限界10BqでNDの肉と検出限界5Bqで*46Bq検出した肉どちらが良い?というのは愚問ですが(模範解答:どっちでもいいから旨そうな方)、例えば主食はこのくらい、たまに食べるものはこれくらい、みたいな判断は落ち着いてやれば誰でも結構できるんだと思うんです。*5
あるいは、あまりに精密なデータは研究用のデータであると理解することとか。
そして、「そんなことはない、放射性物質が少しでも検出したものなんか怖くて食べられない」という気持ちとどう折り合いをつけて生きていくのかということ。「何かを知ってしまうこと」は取り返しがつかないから落としどころを見つけていくしかない。放射性物質に限らず、アフラトキシンや、カドミウムや、ヒ素や、その他もろもろのものとうまくやって生きていくということ。検出器の性能に自分の安全と安心を任せっきりにしないこと。

その他
  • 登壇者も会場の質問も全般的に「科学者がいいたいこと」だった。
  • 休日にわざわざ科学未来館にやってくるだけあって、会場の人も科学に近しいと思われる人が多くて(野尻さんとかきくまこさんとかもおられたし)なんか内輪感があった(いやノコノコ見に行った自分も含めてなんだけど)
  • 早野さんのプレゼンちょう素敵だった。
  • 中島さんも結構嫌いじゃなかった。「御用学者です」とか「対策をどうすればいいか2ちゃんねるに書いてあった」とか。それはともかく、プランB(バックアッププラン)とか下からのサッカーとかの話も良かった。
  • 会場から質問されたお母さんの方はすごく立派な方だった。拍手。
  • 緊急時にこそ、「今いるポジション」を必死で守り抜きながら生きることも大事だよね。
  • 除染について、経済学的判断で移住も検討しては、という話があったけど「殺される前に殺す」とか言う奴がいる限りコストのかかる除染するしかないよ。
  • 科学未来館のコミュニケーターさんたちの仕事は成功事例としていいと思うな。
  • 夕焼けがキレイだった。

R0013295.JPG


正直自分自身、身の回りこそ折り合いをそこそこつけてはいますが、それ以上先になると未だに途方に暮れているのが実情です…。

*1:イベントはUSTREAMされていて、それを視聴された方のtweettogetterでもまとめられています

*2:早野さんのスライドはslideshareにアップされていました。さすが。

*3:普通に科学を勉強した人間であればおかしいと思える対象=明らかに批判コストが低い

*4:すみません書き漏れしていましたので12/21の11時追記しましたorz

*5:変な話、飲み会でお酒飲むのなんてまさにそうだと思うんですけど、ビール(アルコール5%)とワイン(12%)と日本酒(14%)と焼酎ロック(20%)とウイスキーロック(35%くらい)をちゃんぽんしてうちに帰れる(電車を使うか、乗り換えはあるか、トイレはあるか)程度に飲むような。いやしかし酒飲み限定の例えか。